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ジョブ型雇用と複線型人事制度

キャリアコースの多様化

前回の記事「日本型雇用とジョブ型雇用の両立」でも触れたように、一部大手企業に限らず、多くの企業で『ジョブ型』の働き方の導入に動いています。
例えば
○企業にとってこれから必要となる専門性を専攻をしている学生を、従来の新卒一括作用とは別ラインで別給与体系の形態で採用する流れ。
○高度な専門性を持つ人材を高額な報酬で中途採用しジョブ型の雇用契約を結ぶ流れ。
○既存の社員の仕事を職務記述書で明確にし、ジョブ型に分けていくやり方。
と言ったように統一された制度ではなく、各企業が自社の実情に沿った『ジョブ型の雇用』を導入し始めています。
ジョブ型雇用の導入には、並行して既存の人事制度、評価制度、賃金制度の見直しが求められるため、徐々に導入を広げていくという企業が多いようです。

中でもこれから一番増えていくであろうと言われている『ジョブ型』の働き方が、従来の総合職と専門職など多彩なキャリアコースを同時に活かす人事制度です。
企業によって呼び名は変わりますが『専門職コース人事制度』とか『複線型人事制度』などと呼ばれます。
参考:複線型人事制度とは(日本の人事部)
課長、部長などのマネジメントに携わる従来のキャリアコースだけでなく、複数のキャリアコースを用意する人事制度で、中でも専門職としてのキャリアコースを明確にしている企業が増えてきています。

その背景には企業を取り巻く競争激化の経営環境の中、事業の多角化に向けより専門性ある人材の育成、確保が急務であることや、また従来のメンバーシップ型雇用での年功序列によるポスト不足の問題もあるかもしれません。

メンバーシップ型で雇用され総合職を中心としたキャリアコースの選択には、近年ネガティブなイメージが出てきており、当サイトでもいくつか取り上げました。
少子化・人口減少問題と企業の社員年齢再編成の為のリストラ」で言及したように、少子化や労働人口の年齢構成比から、現在の40才~のボリュームゾーンが黒字リストラの対象になっていたり、
メンバーシップ型で雇用された40代、50代に待っているジョブ型雇用」では、その層の転職、再就職に対し、「スキル・専門性」が重視されていることを紹介しました。
さらに現在の若い世代においては、「社内での出世に興味がない」という声が増えていることや、転勤やローテーション人事による配属転換に抵抗があったり、一つの会社で長期間働く気はなく、転職によるキャリアアップを前提にしている人が増えています。
そのような背景からも、総合職としてのキャリアコースに対しネガティブなイメージを持つ人は増えてきているのです

今後、専門性を生かした多彩なキャリアコースを用意した企業では個々のキャリアの選択肢が増えるのでより働きやすい環境になります。

従来の課長、部長と言ったマネジメント職も、単なる出世ポストではなく、高度なマネジメントスキルを有する専門職として見なされてくるなら、総合職が少なくなり専門職が多数となる組織になるかもしれません。

求められる専門職のキャリアステップとキャリア開発

このように複線型人事制度は、一つの会社において多様なキャリアコースを選択でき、自己のキャリアアップを実現できるというメリットがありますが、一方で、より高度なキャリア開発を求められます。
課題となるのは、簡単に言えば
「専門職コースを選んだ人は、何歳になっても同じ仕事のままなのか?」
「30歳と50歳の専門職の違いは何か? 給与は同じなのか?」
といった素朴な疑問です。
総合職であれば、課長、部長などあるセクションをマネジメントする役割り、事業部門の経営という仕事やポストがあり、それ相応のミッションやタスクを課せられ成果を求められますが、専門職に対して先々のキャリアをどうするかは、大きな課題となるのではないでしょうか。
特に技術関係の専門職(特にIT系)となれば、日々の技術の進歩に対応できる自己研鑽が求められ、年数を重ねたから経験値が豊富であるから評価が高いと言い切れなくなっています。
一昔前に言われた「SE35歳定年説」にもあるように、同じ仕事を継続しているだけでは若手との世代交代を余儀なくされます。
したがって専門職にも専門職としてのキャリアステップを用意し、その経験を上手く事業に活かすミッションを与えるていく必要があります。
しかし以前のように、エンジニアがある程度年数を重ねると、マネジメント側に回り部署の統括と後輩育成に従事したり、工場長のような経営側に回るキャリアステップでは総合職コースと何ら変わりはありません。

専門職には、特別な役割を持つポジションを用意するか、専門をさらに活かすステージを用意して上げる必要があります。
例えばある程度の年数とキャリアを積んだ社員に社外やグルーブ会社での仕事を任せるステージ、協力関係ある会社に出向するステージ、はたまた電通やタニタのように専門を生かした社内個人事業主というステージなど、複数の活躍の場を用意するのも一つの方法です。

そして何よりも、専門性を高めた専門職の評価と報酬を明確にしていく必要があります。
年功による人事制度を外れたとは言え、専門性を評価し若くても高額な報酬を与える制度を導入しない限り、年数とともに報酬が上がっていくような制度は必要なのかもしれません。

そして、専門職コースを選んだ社員は、その専門性を十分に生かした成果を出し、経営側のミッションに応えていく必要があるのです。