中堅中小企業が欲しい人材
上場企業の早期希望退職者募集が前年比の倍の規模で進み、40歳以上の転職市場は益々膨らんでいます。応募者に対し受け皿企業が全く無いわけではありませんが、希望する仕事、報酬に対しての受け皿は極めて少なく、それなりの好条件募集は競争率100倍以上とも言われています。(参考:2021年1-3月 上場企業「早期・希望退職」実施状況 東京商工リサーチ)
大手企業は早期希望退職者募集の発表とともに必ずと言っていいほど『再就職支援』を打ち出しますが、担当する人事部門も、依頼される外部の再就職支援の人材会社も、これだけの人数と多種多様な希望が出れば、仕事の大半は転職先探しではなく対象者の説得なのかもしれません。
一方で、中堅企業・中小企業の多くは、大手出身の人材に興味を持っており、積極的に採用しようとしています。
中堅中小企業の多くは現在、事業継承の問題や社員の高齢化などの課題も多く、新たなビジネスの構築に戦力となる人材は、喉から手が出るほど欲しいでしょう。
以前の記事「大手企業からの転職者に中小企業経営者が求めるもの」でも述べたように、大手の体制の中で長年培ってきた課題解決、状況把握と言った事業推進手法とメンバーのマネジメントなどに期待するところは大きいのです。
特にコロナ禍で先が見えない、現状の事業が頭打ちの会社にとって一番欲しいのは、『営業力のある人材』です。
営業と言えばどの業界でも欲しい職種ではありますが、中堅中小企業にとっては、時代に合わせた商品・サービスの開発はもちろんのこと、取引先や販路の拡大、さらに他業種との協業など、従来の事業の枠組みを超えた活動を考えています。
そういう意味での『営業力』を持つ人材が期待されているのです。
求められる営業力とは
一般に営業力と言えば、顧客、新規客に対するスキル、テクニックか多く語られています。
ヒアリング、リスニング、トーク、クロージング、などのテクニック、あるいはサーベイ、ラポール、といった概念的なもの、さらには計画の立て方、ランク分けアプローチ、など具体的な手法に至るまで、営業に関する指南書は山ほどあり、各種研修やセミナーも頻繁に行われていますが、多くは若手社員、営業初心者向けのものです。
しかしながら中堅中小企業が求める営業力は少し違います。
具体的には次のようなものです。
①事業展開に役立つユーティリティ
新規事業はもちろんのこと、取引先、販路の拡大を期待する中堅中小企業においては、従来のビジネススキーム、ルート、売上手法などとは異なる新たな展開を模索しています。
その会社の事業構造、マーケットと存在価値を理解し、全体を俯瞰して見る目。「同じ職種で転職は意外に難しい / 求められるキャリアチェンジ」でも述べたように、まずその企業の経営理念や顧客対応、人材観、業界内競合差別化などを充分に理解することが重要です。
その上で新たな顧客のイメージや商品、サービスを考え、新たな外部パートナーの発掘や、そのビジネススキームなどの構想が求められます。もちろん前職で活用した社内外向けIT技術の導入なども期待されることです。
その為に必要なのは、社内の関係部署、担当者からの意見を聞いたり、関係ある外の会社、取引先からヒアリングしたりといった『情報収集力』です。その為に必要なメンバーをどう活用するかも問われます。
大手企業であれば、新規事業開発室や新規プロジェクトとして推進するものを、小規模尚且つ短期間で進めていく必要があります。
その為の対人関係の営業力です。
②新たな営業のやり方の伝授
中堅中小企業の多くは既存のビジネスで培われたベストな営業スタイルを持っており、長年そのやり方を踏襲しています。しかしそれだけでは新たなビジネス、事業は構築できませんし、経営者の多くもこのままでは頭打ちになることは解っています。
販路、取引先を拡大していくための新たな行動、商品セールスだけではない付加価値の高い提案など、自ら実践して見せる事。メンバー同行や社内へのフィードバックなどが求められるのです。
ある営業マネージャーが、転職後にその会社の商品パンフレットを使わず、自らオリジナルの提案書を作成し、新たなビジネスの受注に繋げたところ、メンバー達がその提案書を真似て活動し始め、新たなビジネスの受注が続いたという話があります。
営業力は影響力でもあるのです。
➂社内営業力
中堅中小企業には、停滞している社員、いわゆる既存の仕事だけに甘んじている社員や、長年の習慣や思い込みから成長が見られない社員などもいます。
そういう社員に新たな役割やポジションを与え、能力を高め成長させていくことも求められます。
その為には、メンバー個人としっかり向き合い、常にコミニュケーションを取り、個々の潜在的な希望や不満、提案をすくい上げていくこと。
「〇〇さんが来てから、社内が変わった!!」と言われるよう社内メンバーに対する営業力も必要なのです。
営業とは決してモノを売るだけの仕事ではないことは経験者であればご存知でしょう。
人を通してモノを価値を与える仕事です。
もし貴方が営業管理職や部門統括者を希望したり採用されたとしたら、転職先の営業に馴染むのも大事ですが、『自分の価値をどう売るのか』、『転職先に何を与えらるのか』をまず考え、行動に移していくことの方が重要だと思います。
「新しい〇〇さん、頑張ってるみたいだね」よりも、繰り返しになりますが
「〇〇さんが来てから、社内が変わった!!」の方が、貴方自身もヤリガイあるはずです。