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ビジネスの範囲の拡大と銀行員のイメージ

銀行の新事業への進出

以前コラム「オリンパスの早期退職募集に見る事業分野選択と人材」では老舗企業の新規分野への転換には、かつての主流人材から新たな分野への人材の投資が重要であると紹介しました。
また「地銀再編 役割と人材」では、これからの地銀は企業経営に、より踏み込んだ提案とそれが出来る人材の育成確保の重要性について書きました。
平成不況からの脱出と、新型コロナウィルス感染の影響から、多くの企業が新たな事業、事業形態へと転換しようとしている中、大きなニュースになっているのか゛

来年度(2021年)にも広告事業参入 高齢者サービスも強化―三井住友FG社長 (時事ドットコム)

というニュースです。

ついに銀行による新事業への進出を阻んできた規制が緩和されます。
金融庁の金融審議会が銀行法で定める銀行ビジネスの範囲の拡大を盛り込んだ報告書案をまとめたという事です。早ければ今年秋ごろに新制度が動き出すようです。
銀行法で固く縛られてきた銀行の事業が、これからの時代に役立つ金融機関としてより幅広いビジネスを展開していく。
聞こえは良いですが、何年も前から既に事業が頭打ちと言われてきた銀行、特にメガバンクは縮小の一途を続けていたので背に腹は代えられない事態への対応と言う見方もできます。

具体的には、
新規事業拡大面で「銀行子会社にアプリ販売や広告、人材派遣など8分野を解禁」「グループで8分野を手掛ける場合の認可は不要」「デジタル分野など個別に認可を取得すれば幅広い業務も可能」
さらには投資子会社のコンサルティング業や出資規制の緩和や地銀のシステム統合費用などを補助などが盛り込まれています。
そして今回の規制緩和は規模にかかわらず銀行や信用金庫、信用組合など金融機関全般が対象です。

ニュースにもあるように、三井住友FG太田社長の話では、早くもグループのスマートフォンアプリやウェブサイトに他社の広告を掲載するビジネスや高齢者向けサービスでは、オンラインで遺言を預かるサービスを検討し始めています。
先だってANAホールディングスが、マイレージ会員サイト向けの広告事業を発表しており、今後ユーザー向けの会員サイトへの広告ビジネスは様々な企業が乗り出すことでしょう。
ただ敢えて苦言を呈すれば、会員制サイトの広告掲載ビジネスは既に過渡期に入っており、毎日のように見るサイトならともかく、活用目的が決まっているサイトに於いては、関連した広告でも効果は極めて低いのが現状です。今後ビジネスとしてどうなるか、使い勝手の良い新たなアプリかどうかなど注目です。
さらにアマゾン・ドット・コムなどフィンテック企業の参入で金融業の垣根が崩れると言う話も出ています。
キャッシュレス決済のプラットフォームビジネス、システム販売や人材派遣にしても、先行している多くのベンチャー企業とどう差別化していくか。信頼できる銀行のサービスとしてその真価が問わるかもしれません。

重要なのは銀行員のイメージを変えられるか

事業分野が広がることによって求められる人材も変わります。
銀行に於いても今回の銀行法規制緩和で、システム開発、アプリ開発、会員サイト運営、ネットビジネス、広告ビジネス、派遣では人材コーディネータ、遺言サービスでは弁護士、司法書士などの専門知識、専門家が必要となります。
外部協力パートナーとの連携はあるでしょうが、それでも行内に専門知識を持つ人材、部署は重要です。

預貸業務中心に数多くいた「いわゆる銀行員」が、今後はシステムサービスのスペシャリストや人材活用ノウハウ、高齢者へのコンサルティング能力を求めらます。

法規制により限定されていたビジネスに長く慣れ親しんだ人材が、規制の無い新たなステージで活躍するためには、強い意識の改革が必要です。
良くも悪くも銀行員は、決まり事をミスなくこなす業務が基本。お金が絡む事業であれば尚更です。
融資もルールに沿って細かく行うなど、いわゆる「きちっとしたビジネススタイル」が続いて来ました。
そしてそれが「銀行員」の信頼と結びついていたことは間違いありません。

しかしながら、規制、決まりごとの少ない自由な営業活動、提案活動。
現場での自己裁量と判断、決裁権を持つ自由度の高い仕事に就いた時、果たしてどうなるでしょうか。
その昔、JRが鉄道事業以外の事業(駅ビル、レンタカー、レストラン、ホテル)などを拡大した時、長年の鉄道員を他の事業に移動する際に、サービスマインドや自己裁量についての教育を徹底的に行ったと聞いたことがあります。

昔から「きちっとしている」と言う評価の銀行員。言い換えれば、融通の利かない堅物とも言えます。
新たな事業に取り組む、銀行が事業の多角化でそのイメージをどこまで変えられるかは、行員一人一人の意識と行動にかかっていると言っても良いでしょう。