希望退職 予想外の応募状況
東京商工リサーチの調べ(202012/09)によると、上場企業の早期・希望退職者募集が12月7日までに90社に達し、リーマン・ショック直後の2009年(191社)に次ぐ高水準になっているとのことです。
既に来年一月に予定している企業も何社かあり、予想通りとは言え、この流れは留まることがないようです。
■今年の上場企業「早期・希望退職」 90社に リーマン・ショック後2番目の高水準(東京商工リサーチ)
そんな中、いくつかの企業で募集と同時に直ぐに多数の応募があるという現象が起きています。
このサイトの「早期希望退職者の受け皿、転職活動について」でも触れたように、今までは起業が希望退職を発表しても応募は間違いなく想定を下回ると言う前提がありました。
その為に企業側は本格的に希望退職者募集を告知してから締め切りまで何カ月も猶予を設けており、想定した数が集まらないことを前提に、割増退職金、再就職支援をうたい、対象となる層に対し個人面談を行うなど、あの手この手で対処する話が多かったようです。
一方で対象者にとっても「早期退職推奨でも辞めずに残るときの心構え」の記事も紹介した通り、推奨されても辞めずに残る方が得策と言う識者、専門家の声もあり、目標人数を達成するのは容易ではないだろうと考えていました。
しかしながら、今年に入って希望退職者募集を発表した企業で、想定人数が全く集まらず、募集を延期したりを追加募集、対象者条件の拡大を行った話はあまり聞きません。
むしろ、目標人数に容易に達していたり、はるかに越える話が各所で出ています。
例えば、発表されただけでも
・ファミリーマートは800人の希望退職者募集に1025人の応募。
・三菱自動車は11月中旬から僅か二週間で550人の募集に対し654人の応募。
・オンワードホールディングスは350人の募集に413人が応募。
・ワールドの希望退職者募集には約200人に対して294人が応募。
・松山三越が希望退職は2ヶ月で全従業員250人の8割、約200人が応募。
と言うように、想定を超える数の希望退職者が出ています。
なぜこのような状況になってきているのでしょうか。
会社の将来性への期待薄と自身のキャリア
近年の傾向として、希望退職者募集の背景、つまり会社の人材に対する考え方の変化があります。
日本型経営を元にしたメンバーシップ型採用による長期雇用からジョブ型への移行。さらには終身雇用、定年制の廃止などの雇用側と働く側の人材雇用に対する意識の変化が背景にあります。
数年前からの黒字リストラは、業態の大変革を元にしたスビートある新体制の確立、縦割り組織の改革などもとに、比較的人件費の高い中間層を対象に希望退職で人員構成を変え人件費を抑えようと言う流れでした。
しかしながら実際には労組との調整が上手く行かなかったり、掛け声ばかりで中身が伴わない経営層に対し、現場では、対象外の若手社員、残って欲しい戦力社員などが退社、転職していく状態が多数出ているのです。
また、IT化、デジタル化の流れに対応できずにいる企業では、ハンコ・紙文化、低生産性や未だ毎日出社を強要する会社に対し不満を抱く社員達の離脱など昨年ごろから、自分のキャリアを考えた上での転職、再就職による人材の流動は増加していました。
そして今年の新型コロナウィルス感染の影響です。
ステイホーム、リモートワーク、地方移住、など様々な生活様式に変化が起こり、巣ごもり需要なる市場や新たな生活様式でのマーケットの拡大など、アフターコロナでも変化し続ける経済環境において、「不況が終われば会社は回復する」「従来の事業が元通りになる」と言えない状況になっています。
代表的なのは、店舗販売主体の老舗のアパレル業界、百貨店、旅行代理店、そして窓口中心の金融機関など、ユーザー、利用者が求める価値の変化や利便性により、従来の業態のままでは将来性が無いと思われる業界、業種が浮き彫りになっています。
また、大手メーカーのサプライヤー、老舗の精密機器メーカー、医薬品業界などにおいても、新たなマーケットへいち早く転じることが出来ていない企業も同様です。
そのような業種、企業では、コロナ禍の我慢の時期にあっても、将来に不安を感じ、希望退職に応募する人材が増えてきているのです。
想定人数を越える希望退職があった企業は、人件費の削減により、当面の危機は乗り切るかもしれません。
しかし、事業の根本的改革、社会への新たな価値創造と、新たな人材戦略を明確に打ち出し成果を上げていかなければ、残った社員達も将来に不安を感じる状況では、いずれ同じことを繰り返すのではないでしょうか。