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大型出向と人材戦略

ANA 社員出向の受け入れを要請

新型コロナウィルスの影響により急激に業績悪化した航空業界にあって、大きなニュースが話題になっています。
ANAがトヨタ自動車を含む数社に社員出向の受け入れを要請したと読売新聞が報じています。
【独自】ANA、トヨタに社員出向受け入れ要請へ…3500人削減
読売新聞のスクープということで、他のニュースではトヨタの名前や具体的人数は出ていないようですが、新型コロナウィルスの影響から経営危機が囁かれていた航空業界だけに、注目が集まっているのでしょう。
ANAHD、グループ外企業への従業員出向検討(日本経済新聞)
ANA、社員3500人削減へ 一部は他社に出向を要請(朝日新聞)

金融機関の中小企業への出向、大手メーカーの関連子会社への出向などこのサイトでも「出向」については幾度となく触れてきていますが、早期希望退職では無く、全く違う業界・他社への出向と言うのあまり聞きません。
ANAに関しては今期5000億円前後の赤字予想と、経営の3割を締める人件費の兼ね合いからも最重要課題であることは確かでしょう。記事タイトルは3500人削減とありますが、採用凍結、定年なども含めなどでグループ全体の社員を2022年度までに3500人削減するということのようです。
つい先だって同業他社への副業解禁の話が話題になったANA。
出向に関しては将来、業績が回復した時点で出向者を戻すのか、はたまた何年か後に転籍を前提としているのか解りませんが、やはり副業解禁も含めて、計画的人材戦略の一つなのかもしれません。
(関連記事:■週休4日、副業解禁の背景にあるもの)

出向の主な要請先はトヨタ自動車だけでなく数社という事ですが、対象人数が大きければ出向だけで一社あたりそれなりの人数になるでしょうし、要請を受けた側も人件費はかからないとしても、今後、それら出向者に何の役割、仕事を任せていくのか、勤務地の問題などの難しい課題を突き付けられることになるでしょう。

出向は戦略的人材活用

本来、出向は企業にとって戦略的な人材活用の手法として広く活用されていました。
出向と聞くと「不要人材の押し付け」「島流し」「余剰人材の受け皿」「役員の小遣い稼ぎ」などのネガティブなイメージがあるでしょうが、企業の新規事業や多角化に向けて、新会社、新部門設立時に中枢人材の出向が多く活用されてきました。
有名な富士通やNTTドコモも、元をただせば富士電機の通信機部門であり、日本電信電話の移動体通信事業部です。新規事業を分社化するために出向、転籍した方も多いと思います。
また、別々の企業が出資して戦略的に子会社を設立する際にも、スタート時に各企業からの多くの出向社員が活躍しています。
(関連記事:■出向をどう考えるか)

近年では、パナソニック、旭化成などのシニア人材の地方企業への「お試し出向」や、大阪ガスの戦略的に事業を分社化しての1800人の出向などが話題になりましたが、いずれも事業戦略の一部として推進されています。また、各省庁や全国都道府県の県庁、市役所でも、以前より民間企業の感覚、経験を積ませることを目的として職員を民間企業に出向させていましが、更にここにきて、デジタル化に向けて民間のIT関連人材の出向を逆に受け入れるなどの動きもあります。

これから企業に求められている事業改革、新規事業、新分野への多角化など、いずれにしても、社員の出向は、専門職採用やジョブ型雇用と共に、今後の事業戦略における人材の戦力化の一つとして活用されるでしょう

ANA自体は今後、比重の多い航空事業以外に、マイレージ会員への多角的サービスや、配下のLCCの地方路線の充実などで経営基盤強化を図っていくようですが、今回の出向社員も出向先で、もし営業販売系であれば、その接客クオリティを顧客接点の仕事に活かせますし、技術系であれば航空関連技術と他業界のコラボなど、出向での経験、さらなるスキルアップが将来的に両社に活かされる可能性は十分あります。

今回のANAのニュースには否定的な意見もあると思いますし、初めてのことですから今後どうなるか分かりません。しかしながら出向に応じる社員の方々は、企業間の新たなビジネスの人材として頑張っていただきたいですし、大量に受け入れる企業側にもその受け入れ効果を期待したいところです。