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在籍型出向と社員の職能開発

増加する在籍型出向

昨年秋に、ANAホールディングスなどで話題になった社員の出向。
当サイト「大型出向と人材戦略 Part2」でも紹介したように、従来のよくある関連会社、グループ会社への出向ではなく、全く関連の無い他の業界、会社への出向など異業種間出向が増えてきています。
業績不振で同じ運輸業の日本航空も4月から、1000人程度だった出向者を約1400人に拡大。ANAホールディングスは昨年10月以降、当初延べ400人程度を見込んでいた出向者が累計約750人に達しているようです。
新型コロナウィルス感染の影響からくる業績不振の中、社員の雇用を守るための一つの施策として始まったものですが、産業雇用安定センターの報告では、昨年度3000人規模の在籍出向が行われたようで、今年もまだまだ増えるのではと言われています。
在籍出向がコロナ禍で2倍に 20年度3061人、失業者の急増回避で(産経)

さらに今週、同じ運輸業界でJR西日本が200~300人規模の社員出向を発表しました。
JR西日本、労組と出向協定を締結 飲食店や旅館などに(日経)

出向社員の給料はJR西日本が負担し、余剰人員の雇用確保を図る狙いがあるようです。
そして旅行業界では大手のエイチ・アイ・エスは1000人規模の社員を出向させる方針を発表し、JTBは、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに約20人を派遣しています。
また、大手企業に限らず、リゾートホテルからレストラン、食料品小売業から知的障害児入所施設、航空運送業から卸・小売業に在籍出向したケースもあり、今年に入ってからは、コロナ終息が見えない状況において、一社に何十人単位ではなく様々な業種に1~2名の少人数の出向も増加しています。

在籍型出向は、従来の関連会社、子会社などへの出向とは異なり、出向元企業と出向先企業の両方と雇用契約を結ぶのが特徴で、派遣でもありません。(詳しくはページ下部参照)
政府も在籍型出向を行う企業に対しては、日額1万2000円を上限に賃金など人件費の最大9割を支給する助成金制度を創設するなど前向きに支援しています。
在籍型出向支援(厚労省)

働き方改革、社員の職能開発の為の出向

そして注目されるのが、受け入れ先として増えてきている『地方自治体などの公的機関』です。
レストランや飲食、宿泊業、接客サービスや受付応対など、従来からある個々人のスキルが活かせる民間企業への出向は、受け入れ先の企業にとっても戦力として魅力的ですが、その他の様々なスキルも活かせる場として新たに地方自治体が手を上げています。

例えば、岡山県はこれまでの旅行商品の企画に携わった経験を生かして、観光情報の発信に取り組む人材を観光課の国内誘客班で受け入れたり、和歌山県は4月から、営業経験豊富で語学力が堪能な人材を、観光振興課や国際課などで県産品や観光のPRなどに従事しています。
参考
岡山県が在籍型出向の支援強化 JAL客室乗務員「経験生かす」
出向社員受け入れ 県、航空・鉄道業界から15人 /和歌山
その他、日本航空が鹿児島県へ。ANAは兵庫県姫路市や沖縄県浦添市に出向させています。

社員出向には、会社都合の人員整理、体のいいリストラなどネガティブな意見もありますが、いずれも需要の回復を見据えて社員をつなぎ留め、復帰後には出向先での経験を本業に生かしてもらう狙いがあります。
接客、対人応対スキルだけでなく商品企画力、語学など幅広いスキルを、全く違う業種やビジネスの場で発揮し、その環境でさらに習得したものをフィードバックすると言う、『社員の社外でのスキルアップ、知識取得』は、結果的に本業に良い相乗効果を生み、新たな働き方、職能開発、社内外教育のモデルにもなるのです。
今後、コロナが終息して経営環境が回復しても、在籍型出向による社員のスキルアップの流れは継続して残るのではないでしょうか。

そして社員もこの在籍型出向をネガティブに捉えず、自身の新たなキャリア開発の場として活かすことを考えてみるのも良いのではと思います。

【参考情報 在籍型出向について】派遣との違い

<一般的な在籍型出向の取扱い>
在籍型出向の形態は、労働者供給に該当するものですが、
①労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する
②経営指導、技術指導を実施する
③職業能力開発の一環として行う
④企業グループ内の人事交流の一環として行う
等のいずれかの目的があるものについては、基本的には、「業として行う」ものではないと判断される。
労働者供給を「業として行う」ことは、職業安定法第44条により禁止されているが、在籍型出向は、出向先企業と出向労働者との間に雇用契約関係があるため、労働者派遣には該当しない。