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同一労働同一賃金と70歳までの就労機会の確保

同一労働同一賃金で浮き彫りになる問題

働き方改革関連法案の制度改正で大きいのは、来月(2021年4月)から中小企業の同一労働同一賃金の導入と70歳までの就労機会の確保を努力義務とする点です。いずれも少子化による労働人口の減少を背景に、働く側にとってメリットのある制度であると言われています。
同一労働同一賃金については昨年4月よりすでに大手企業では導入されており、特に大量の非正規社員を抱える流通小売り業や現場で契約社員の多い製造業などで各社施策や新たな制度が始まっています。
参考1.□同一労働同一賃金(厚生労働省)
参考2.□同一労働同一賃金の取り組み事例集(厚生労働省)

厚労省の指針のアウトライン、上記の事例を見る限り『同一労働同一賃金』ではなく『同一労働、社員に少しだけ近づいた同一待遇』と言う感じがしないでもないですが、今までパートや契約社員で頑張ってきた方々にとっては少しは改善されてきているのかもしれません。
先進国では非正規社員であっても正社員の8-9割の給料を得ることが出来るのに対し、日本ではまだ正社員の6割弱程度と言われています。同一賃金とまではいかなくとも先進国と肩を並べるには、待遇、処遇ではなくそもそもの賃金、給与体系に手をつけていかなければならず、それにはまだまだ時間がかかるでしょう。

同一労働同一賃金のメリットとしては
・ 非正社員の労働意欲の向上
・ 人材不足の解消
・ 非正社員のスキル、能力アップ
などが言われています。
待遇改善によるパート、契約社員の不安解消と共に働くモチベーションのアップにつながり、ある大手小売りでは社員登用制度を設け、パートが店長になったケースが出てきています。
また、採用が楽になると共に、育児休暇など制度により離職率が下がり定着に結び付いたり、社員教育制度を活用し非正規社員の教育研修など個々の能力アップにつながっている企業も出てきています。

一方で企業側はメリットだけでなく課題もあります。
各種人事制度雇用制度の大幅な改定や雇用契約時の詳細説明業務、そして何と言っても各種処遇にかかる人経費の高騰です。
メリットを享受し戦力となる人材は重要ですが、社員志向やスキルアップ志向が低く、辞めない非正規社員をどうしていくのかなど、今後解決していかなければならない課題は出てくるでしょう。
そして何よりも、非正規社員と同一の労働しかしておらず、その給与待遇に甘んじている正社員をどうしていくかが一番の問題になるでしょう。
企業との雇用形態、契約条件は異なっても、専門性やスキルで業績に貢献する人材であれば、ジョブ型で雇用していくスタイルに変わってくべきだと思います。

70歳までの就労機会の確保の考え方

70歳までの就業機会の確保に関しては、4月1日に改正高齢者雇用安定法で施行され、高齢者の活躍の場をさらに広げる狙いがあります。
65歳までの就業機会確保だけでなく定年の引き上げ、継続雇用、定年の廃止など多様に選択肢を用意し、企業によって様々な制度を導入していくことになるでしょうが、二の足を踏む企業も多いのが現状のようです。

ひとつは平成不況や新型コロナの影響による業績不振。
多くの企業が経営改善、人件費削減から40歳以上の中高年のリストラが加速している現在において、その上の年代の社員の処遇や定年後の再雇用まで手を付けられない状況であること。
先を見通した事業転換でM&Aや事業売却の話まで進む中、旧事業の高齢化した人材をどう活用していくのかと言う問題。
そしても年功序列の廃止、メンバーシップ型雇用の見直しなど時代に合わせた『人材活用戦略』上で、定年人材、再雇用人材の報酬や処遇をどうしていくのか。など高齢人材を積極的に活用していくには、新たな制度設計が求められます。

そして雇用される側も、「本来やっていた仕事とは別の閑職」「半分程度。それ以下になる給与」「以前の部下が上司」などよく言われる再雇用不安を抱えモチベーションダウンしてまで働くかどうかと言う選択に直面しています。
このように制度は施行されても、「後は各企業で考えなさい」と言う話では、なかなか進みません。

そんな中、思い切った改革で、定年人材や再雇用を上手く活用して会社が出てきています。
それは『社員の個人事業主化』や『自社が関わる社会貢献事業の従事』と言う選択肢です。
特に社員の個人事業主化は電通やタニタも以前から話題になっており、厚労省も勧めています。
自社のビジネスの外部委託だけでなく、個人起業のアシストをしていくやり方です。
現に、以前賛否両論あったタニタでは、定年前から個人事業主に手を上げる社員も出てきており、制度として定着してきています。
タニタでは個人事業主制度を利用する割合が多いのは定年前の50代で人脈やスキルの蓄積を活かし、個人事業主への道を選ぶ人が多いようです。
しかもタニタの制度は、年齢はいくつからでも応募できるようです。
参考:□定年前に独立を、タニタ社長が「再雇用の受け皿」をなくしたい理由(日経ビジネス)

現在、60歳、65歳、定年の時期になって次の道を考えても選択肢は少ないでし、もちろん収入面でも不安もあります。
今後は個人事業主化も含め、個人の働き方を多様な選択肢で支援する企業が多く出で来ることでしょう。

定年の年齢、再雇用期間は会社が決めたものです。
会社が決めたルールに振り回されることなく、定年前の50代、いやその前の40代、30代からでも、次の道を考え自分で選択していく時代になっていくのだと思います。
貴方のキャリアは貴方のモノ、まさにキャリアオーナーシップの考え方です。
参考: キャリアオーナーシップとは