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教育のデジタル化と企業のデジタル化

教育デジタル化の課題

昨年新型コロナウィルスの影響もあり、小中学校が相次いで休校になった中で注目されたのが、オンラインによる遠隔授業、デジタル教科書などのICT教育です。
以前より文科省主導で進められていた『GIGAスクール構想』で一人一台の端末環境による教育が進められていましたが、さらに拍車がかかった感じになっています。
参考 : GIGAスクール構想(文部科学省)
『多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、子供たち一人一人に公正に個別最適化され、資質・能力を一層確実に育成できる教育ICT環境の実現。 1人1台端末は令和の学びのスタンダードとしている。』とうたっています。
OECDの調査では日本は授業でのICT活用がOECD48か国中最下位、最低レベルであったことも背景にあるのでしょう。

一方で、先日読売新聞が行ったデジタル教科書導入に対するアンケート調査では、様々な課題が浮き彫りになってきています。
参考■【独自】デジタル教科書の効果検証「3年は必要」が4割…全市区調査(読売新聞)

デジタル教科書を巡っては、2009年以降に政府で検討が本格化し各地で実証事業が進められ、学校教育法の改正で19年4月から従来の補助教材としてではなく正式に教科書としての活用が可能になっています。
文部科学省は2021年度の1年間、全国的に無償でデジタル教科書を配布する実証事業を行い、効果の検証や必要な制度改正の検討の上、2024年度からの本格導入を目指しています。

読売新聞のデジタル教科書推進のアンケートで現在課題として上げられているのが、
●学習の理解度や定着度
●教員のICT指導力
●学校内外の通信環境
●視力低下などの健康面
●保護者の受け止め
などの項目です。

特に『学校内外の通信環境』と『教員のICT指導力』に関しては色々な問題もあり、環境整備の為の予算確保に各自治体とも苦労しており、自治体の支援員の確保や態勢などが十分でないという意見が出ています。ある自治体では「急にネットの接続が切れた」と言う話があったようでネット環境にかける予算は大きな課題です。
また、「端末の電源の入れ方が解らない教員もいる」と言うICT指導以前の問題もあり、指導側人材の育成にも課題が出ています。

デジタル教科書の導入に関しては、「紙の方がじっくり読めて読解力や思考力が深まる」「取り扱いが簡単で学習に集中できる」と言う意見が多く、一方のデジタル教科書は「動画や音声で生徒の興味関心を高められる」「ルビ振りや読みあげ機能で特別な支援が必要な子供が学習しやすい」と言う意見が出ており、今後は紙の教科書とデジタル教材の上手い使い分け、融合が求められていくのだと思います。

このICT教育の話を聞いて、何かに似ていると感じた方もいるのではないでしょうか。
そう、企業のデジタル化推進と似ているのです。

同じ課題から浮き彫りになるのは

企業は教師と生徒と言う関係ではなく、どちらかと言えば全員が教師であり生徒です。ですがIT化、デジタル化推進について導入に関する課題は似ています。

●学習の理解度や定着度→●IT、デジタル化、DX導入での効果、成果への理解
従来の業務をさらに効率化し、個々人の生産性をアップさせる為の各種デジタル戦略に対しての理解度は未だまばらな企業が多いです。そもそものツールが何なのか理解できなかったり、AIなどの導入で自分の仕事が無くなるのではと言う危機感を感じたりと言う方がまだまだ多く、一気にスピードアップが必要な改革に二の足を踏む経営層も多いのです。

●教員のICT指導力→●社員のIT知識、リテラシー
学校に「端末の電源の入れ方が解らない教員もいる」ように、企業にも「ツールの使い方がよく解らない」「デジタル書類をプリントアウトして使う」と言う方ががまだまだいます。特に紙の書類、捺印などで仕事をしてきた中高年のIT教育は企業にとって課題となっています。
リモートワークが上手く進まなかった理由の一つに、中高年、経営層のIT知識が影響していたのは間違いありません。当サイトの「脱ハンコ・ペーパーレス化への課題と働き方」でも触れたように経営陣のITリテラシー不足は企業停滞の大きな要因です。

●学校内外の通信環境→●社内外のデジタル環境
リモートワーク。在宅勤務が上手く進まなかった大きな要因が、この通信環境問題です。セキュリティはもちろんの事、端末や回線の準備に予算がかかり、うまく進められない企業が続出しました。
コワーキングスペース、各種手当など、仕事環境、福利厚生面でも後れを取る企業はまだまだあります。

●視力低下などの健康面→●社員の健康管理
直接IT機器での影響と言うわけではありませんが、コロナ禍において社内の衛生管理、ソーシャルディスタンスを意識したレイアウト、さらに社員の健康面でのヘルスケアも着手している企業と全く手つかずの企業で二極化しました。

このように学校も企業も、デジタル化推進に関しては似た課題が多いのですが、よくよく考えれば全てにおいて『意識』が起因しているようです。特に経営層、指導層の知見と一早い改革推進に対する意識です。

それが変わらない限りどちらも「まあ焦らずゆっくりでいいのでは」となり、企業のデジタル化も学校のICTも世界先進国で依然として下位に低迷することでしょう。

そしてもう一大事なのは、これらアンケート調査はどちらも経営側の意見であることです。
授業を受けている生徒の声、働く社員の声がどこまで聞こえているか。
教員、教育委員会や企業の経営側の考えだけで進めていくことはまた新たな課題、問題を生むのは間違いないと思います。

そしてICT教育が進んでいる私立の学校に人気が集まるように、デジタル化が当たり前の会社に優秀な人材も集まり、そうでない会社は採用難となるのです。