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社員の個人事業主化は新しい働き方なのか

社員の個人事業主化

企業の働き方改革が、長時間労働の削減だけでなくジョブ型雇用や在宅ワーク、副業解禁など様々な取り組みが進む中で電通の社員の個人事業主化が話題になりました。
電通、社員230人を個人事業主に 新規事業創出ねらう

一部正社員を業務委託契約に切り替え、個人事業主として業委託契約を結び働いてもらう制度で来年の1月から全体の3%に相当する約230人から始めるという事です。
この話題にはネットでネガティブな反応も多く、「リストラではないか」「労働法の規制や単に社会保障の負担の軽減策ではないか」などの声も上がっています。

社員の個人事業主化と言えば、健康機器の大手タニタが三年前に導入したことで話題になり、その時も各所から賛否の声が上がり、他の企業はお手並み拝見と言う感じで俯瞰しているようでした。

個人事業主と言えば、自分で仕事を選んだり、スケジュールを組んだりと裁量が多い自由なイメージがある一方で、軌道に乗るまでかなりの自助努力を強いられ、売上・収入面での不安定さや、保障の無い働き方と言うイメージもあります。
電通もタニタも、退職して新たな個人事業主として全く違う仕事で独立するのではなく、従来の仕事を引き継ぐ形での委託契約である程度の固定報酬も出るという事なので、全くゼロからという事ではありませんが、
正社員雇用を外されると言う観点から、働く側にとってネガティブイメージは拭えないでしょう。

しかしながら社員の個人事業主化は、企業、個人双方にとってプラスの側面の多い新たな働き方でもあるのです。

個人事業主化の概要 そして効果

今回の電通の場合
・もともと年齢(定年)にとらわれないエイジレスな働き方をしたい社員が多かったこと
・地方に戻っての町興しなどの仕事をしたいと言う声も
これらを元に、「社員達の方から会社へ提案」して実現したこと

会社側も
・個人事業主と契約する新会社を設立し自由に働けるステージを用意
・10年契約は個人事業が軌道に乗るまで一定の業務で支援
・積極的に他の業務や、個人の学び直しの機会を作ってもらう
など、バックアップをしていきます。

背景にあるのは、電通の人生100年時代を見据えた働き方に関する考えです。
個々人の働き方に対する「ライフシフトプラットフォーム(LIFE SHIFT PLATFORM)」を立ち上げています。
電通、人生100年時代における個人の多様な価値発揮を支援する「ライフシフトプラットフォーム」を提唱

一方先駆者として動き出しているタニタの場合
働き方改革が残業の削減や有給休暇の取得だけに焦点をけでいいのかと言う考え方のもと、
・過労死を招くような長時間労働は無くすべきだが、全員が1日8時間で仕事を切り上げることが、日本経済にとっていいことなのかという疑問
・たくさん働きたい人に対して、きちんと報いる仕組みがないことや残業規制によって与える仕事を抑制せざるを得ない状況
などの観点から、
・会社が社員の個人事業主化を支援する仕組み
を推進し、実際
・独立直前まで社員として取り組んでいた基本的な仕事を基本業務として委託
・給与・賞与をベースに基本報酬を決定
・基本報酬には、会社が負担していた社会保険料や通勤交通費、福利厚生費も込み
と言った条件で始めています。
また、実際に個人事業主化の運用効果として
・会社から受け取る報酬は個人事業主全員が増えている
・厚生年金と同じ水準の民間の保険に入った場合の支出を加味しても手取りは増えている
・社外からの仕事が増えるとともに、自腹だったスキルアップの講座などを経費扱いにできたりすることが手取りの増加につながっている。
・従来、残業で対応していた新たな仕事の依頼は、報酬を明確にした追加業務として発注している
と言う個人事業主の特性をうまく活かした効果が出てきており、
さらに、
・委託するにあたって仕事の依頼報酬を決めることから、仕事自体の適正価格が見える
・上下のある会社の雇用関係という人間関係から、フラットで働ける組織に
・従来の仕事が減っても発注側が新しい仕事を創り出し委託したり、本人から新たな仕事の提案があるなど、主体的に働きはじめている
と様々な相乗効果が出てきているようです。

電通もタニタも、背景にあるのは、働き方改革の本筋、人生100年時代を見据えた新たな働き方の選択肢としての個人事業主化であるということです。
決して残業削減や人件費削減、リストラなどではない、ジョブ型委託契約のような、企業と個人の新たな関係とも言えます。
社員の個人事業主化は、まだまだ少数企業の話ですが、お互いのメリットがより顕在化すれば、今後様々な企業、業界で導入されていくのではないでしょうか。