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同一労働同一賃金とジョブ型雇用

非正規社員、契約社員などの待遇格差に関する訴訟のニュースが注目されています。
以前からこのような訴訟は各所で行われていましたが、最近特に話題になっているようです。
参照:■契約社員の手当・休暇格差「不合理」と判断 最高裁(日経)
アルバイト秘書に賞与なし「不合理とまで言えず」最高裁(朝日新聞)
東京メトロ売店の契約社員ら 「退職金不支給」で逆転敗訴 最高裁判決(毎日新聞)

最高裁の判決を受けて、日本郵便は非正規社員の扶養手当、夏期冬期休暇、年末年始勤務手当などの制度改正に取り組むとし、大阪医科薬科大はアルバイト職員に正社員のボーナスの6割支給となりましたが、東京メトロ売店の契約社員への退職金は不合理ではないという判決が出ました。
詳しい訴訟の内容や判決内容に関しては個別の事案であり、専門的知識や見解は無いのでここでは言及はしませんが、雇用契約の種類による労働者の待遇格差問題は、今後も企業経営の重要課題となって行くでしょう。

前提としてあるのが、4月から一部が施行されている「同一労働同一賃金」を定めた働き方改革関連法です。
働き方改革における「同一労働同一賃金」の考え方は、同一の労働に対しては待遇差を是正し、不公平感の無い働く環境を作ることを前提としています。
企業における人材戦略に関しては、以前よりテーマとなっていた高度優秀人材の確保や、今年新型コロナウィルス感染の影響によるテレワークなど働き方の多様化、それらに連動した評価制度の改革など様々な課題が山積みであり、さらに非正規社員や契約社員、アルバイトなどを雇用している場合、今回のような労働格差による待遇是正や制度の改正が急務になります。

非正規雇用

ジョブ型雇用と待遇

同一労働同一賃金による待遇格差問題が起こるのは「非正規社員が正社員と同じ仕事をしている(させられている)」と言う背景があります。

問題の要因の一つに、日本型経営の象徴ともいえるメンバーシップ型の雇用形態があり、正社員は様々な現場を何年かのローテーションで経験すると言う風習があります。
アルバイトや派遣社員が多い職場に新卒が入ってきてベテランアルバイトから仕事を教わると言う話はどこにでもあり、同様の職場に転勤でやってきた正社員が煙たがれる話も良くあります。
企業としては複数部署の経験によりマーケット、顧客接点を通して(現場主義)、将来的に会社の軸となる人材に育成していくと言う考えが根底にあるため、正社員、非正規社員が同一労働の職場が生じています。

また日本型経営の企業に多い正社員の給与制度も要因の一つです。
基本給以外に扶養手当、休暇手当など各種手当は日本独自のものであり、定期ボーナス、退職金なども海外では制度としてはありません。アメリカでは産休・育休:産前・産後に休む場合には、無給が普通で、通勤交通費と言う概念さえ無いといいます。
メンバーシップ型で知識・スキルの乏しい新卒を採用し、安い給料で様々な現場で育成し、戦力、リーダー、管理職と次々昇格することで報酬を上げていき、退職時に退職金という形で帳尻を合わせていく日本型経営では、そのレール外さない(辞めさせない)為に、正社員には各種手当や制度、福利厚生を用意していると言う部分もあると思います。

このような背景もあり、同一労働に対し雇用形態の違いにより賃金や待遇格差がついていると言う状況が起きています。
社員として別途の業務(業績責任、成果、目標、人材管理)などがあれば別ですが、同じ職場で職務内容が全く同一のモノであれば、非正規社員から見て不平不満感が募るのは当然かもしれません。

現在、働き方改革やアフターコロナを見据え、多くの気企業が人材戦略と制度の見直しを進めています。
終身雇用制度の見直し、新卒採用から即戦力人材確保へ、一般職・総合職の専門職化、外部人材の活用、人件費の概念の変換、テレワーク、遠隔地勤務などワークスタイルの多様化、そしてジョブ型の雇用。
正社員、非正規社員、契約社員、アルバイトなど雇用形態に関係なく、その職務に必要な知識・能力(ジョブスクリプション・職務記述書)によるジョブ型雇用が進めば、待遇格差は少なくなるのかもしれません。もちろん、日本固有の各種手当を廃止するのであれば、それなりの報酬での契約という前提だと思います。

もちろん、ジョブ型雇用の推進の一方でメンバーシップ型雇用については継続した方が良いと評価する声もあります。
いずれにしても、同一労働に対しては雇用形態の違いによる待遇格差をどう無くしていくかと言う点は、
不公平感の無く皆がやりがいを感じながら働く環境を作ると言う“企業の使命”であり最重要課題の一つなのです。