前回に続き、話題の本『おじさんは、地味な資格で稼いでく』の著者であり、自らも50歳で一念発起して資格をとり、現在は社会保険労務士として第一線で活躍されている佐藤敦規氏のインタビュー。
第二回目は、気になる「佐藤氏の社会保険労務士としての現在の仕事内容」「仕事の難しさ」について聞いてみました。
※本インタビュー内容は、学ぶ働く研究所(株式会社パセリホールディングス)主催で行われたものを、研究所及び佐藤氏の許可の元、引用しています。
社会保険労務士としての現在の仕事
(佐藤敦規氏 : 以下佐藤 敬称略)そうですね。まず社労士の仕事としては、労働・社会保険関係の申請書を法律に基づいて、会社の依頼を受けて行政機関に提出する仕事がメインなのですが、その他にも労務管理や社会保険、年金などについての相談・指導を行います。
ですが、新型コロナウィルスの影響もあり、昨年から雇用調整の助成金、正社員転換の助成金、教育系の助成金申請など苦しい状況に置かれた中小企業の経営支援が増えています。
さらに『働き方改革の推進』もあり、今までは働き方に関するコンサルティングを頼んでなかった会社から、同一労働同一賃金の問題(注1)、例えばパートの方への手当をどうするかとか、今までの年功序列の賃金体系を時代にあわせていきたい、新たな方向に変えていきたいというような依頼が増えてきていますね。
ご存知のように労働環境はここ数年で大きく様変わりしています。働き方改革もそうですし、同一労働同一賃金問題やパワハラ、セクハラなどのハラスメント、外国人労働者の雇用など労働者に関しては様々な課題が増えています。今年に入ってからは、出向社員の受入れの相談も出てきています。
ですから社労士の仕事は単なる書類作成のようなルーチンワークではなく、労務に関するこれからの新しい働き方に関しての幅広い知識を必要とされると共に、経営コンサルタント的な役割を求められていると感じますね。
社労士の仕事の難しさについて
(佐藤)それは非常にありますね。一つは仕事の内容です。始める前は書類を作っていくだけの地味なルーチンワークのイメージがあったのですが、これが実際やってみると、申請書など書類にしても行政の窓口によって対応が違うのです。書類の中で申請理由とか書く部分など、行政の窓口担当者によって見方が変わったりしますし、内容に具体性を求められたり指摘されたりします。例えば助成金の申請にしても、ある担当官だったら良いとされるのが別の担当官ならダメになったりするケースがあるんです。書類の作成、申請と言うルーチンワークに見える仕事でも奥が深く思ったより大変だとは言うのが本当の所です。
色々なところで「いまさら資格を取っても、そういうのはAIに取って代わられるから、社労士や行政書士なんかに仕事をお願いする人は減るんじゃないかと」と言うような話を耳にしますし、実は私も最初そう思うこともあったのですが、実際にやってみると申請から承認されるまでには、人によるアナログな部分がまだまだ多い。これは変わらないんじゃないかと思います。今は一回で申請は通るようになりましたけど。最初の頃は何回か役所に足を運んだこともありますね。
そしてもう一つは社労士の顧客となる経営者の方です。特に中小零細のオーナー企業の場合、働く社員の労働に関して問題意識を持った方はまだまだ少ないのが実情です。厳しい言い方ですが正直言って9割以上が問題意識が少ない古いタイプの経営者だと思います。以前は、「労働基準監督署に指摘されなきゃいい」といった考えの方や、「残業代を払わなくてすむ方法」などの法律の抜け道の相談をされる方もいましたし。
しかし現在は働く側の労働者の知識も高まっていますし、SNSなどで悪い噂やイメージがついてしまう危険性もあり、極端なことを言う経営者は減ってきていますね。(最終回に続く)
【編集部から】
社会保険労務士の仕事、役割りは次のように定義されています。
● 社会保険労務士及び社会保険労務士法人の業務
● 労働社会保険諸法令に基づく申請書等及び帳簿書類の作成
● 申請書等の提出代行
● 申請等についての事務代理
● 都道府県労働局及び都道府県労働委員会における個別労働関係紛争のあっせん手続の代理
● 都道府県労働局における障害者雇用促進法、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、労働者派遣法、育児・介護休業法及びパートタイム・有期雇用労働法の調停の手続の代理
● 個別労働関係紛争について厚生労働大臣が指定する団体が行う裁判外紛争解決手続における当事者の代理(紛争価額が120万円を超える事件は弁護士との共同受任が必要)
● 労務管理その他の労働及び社会保険に関する事項についての相談及び指導
(出典 全国社会保険労務士会連合会 試験センター)
これらの内容を見る限り、申請書などの資料作成、事務手続きといった事務作業、代理業、ルーチンワークのようですが、実際は佐藤氏の言うように専門知識以外に行政や経営者への対人対応能力、交渉力などのスキルが一番重要なようです。
一般に8士業(注2)と呼ばれる専門家は、法律を理解した事務的な仕事のイメージがありますが、社会保険労務士と同様、営業力、対人関係対応力が求められてきています。営業力が無ければ資格があってもビジネスは出来ません。依頼待ち、相談待ちのビジネスの代表格である弁護士事務所は弁護依頼が減少しているからクレジットカード返金のCMをやりだしたのでは、とも言われています。
BtoB、法人相手の契約や顧問ビジネスは、BtoCに比べ安定していると言われますが、新規の契約を獲得するためにはやはり営業力が必要でしょう。
依頼されたことだけを正確に期限通りに行うのは当然、プラスアルファ顧客に信頼される何かが必要なのかもしれません。
次回最終回はその「法人営業で大事なこと」そして「社労士に興味があり、やってみたいと考えている中高年の方へのアドバイス」をお届けします。
注1 . 正規雇用労働者と非正規雇用労働者の不合理な待遇差を是正する「同一労働同一賃金」制度は2021年4月から中小企業でも法律の趣旨に則った運用が開始されてる。
注2. 8士業とは弁護士・司法書士・行政書士・弁理士・税理士・社会保険労務士・土地家屋調査士・海事代理士の専門的識者の相称。
参考サイト
■社会保険労務士試験オフィシャルサイト(全国社会保険労務士会連合会 試験センター)
■社会保険労務士になるには|資格取得の最短ルートと講座の資料請求について(Blush Up 学び)
■企業の労働者と保険に関するスペシャリスト 社会保険労務士(当サイト 40代50代転職に向けたスキル・資格)
【佐藤敦規氏 紹介】
『社会保険労務士。中央大学文学部卒。印刷業界などを中心に転職を繰り返し窓際族同然の扱いに嫌気がさし、50歳手前で社会保険労務士試験に挑戦し合格。社労士として新規顧客100社を開拓し、現在は約30社の顧問契約に携わり第一線で活躍中。各種セミナー講師、「週刊現代」「マネー現代」「THE21」などの週刊誌やWebメディアの記事も執筆している。 |
【著書紹介】
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