新しい記事のお知らせ

自分自身の労働価値を相見積にかけて欲しい

【神奈川県 Rさん 48歳 設備機器メーカー勤務 → 業界内転職】

長年の歴史を持つ企業の中には、未だにIT導入や働き方の変化に上手く順応できずに、旧態依然とした組織や代り映えのしない業務など、閉塞感を生んでいる企業があります。そんなな中、思い切って転職に踏み切ったRさんは、多くのメーカーの中高年管理職がぶつかる壁をどのように捉え、いかに行動したのでしょうか。

会社員として最も充実する時代はいつかというと、多くの人は30~40代と答えるのではないでしょうか?
特に40代といえば新卒入社なら社歴20年、中堅社員扱いとなります。
部下の管理・育成と合わせ、プレイングマネージャーとして自分自身も結果を出していく。
業界知識と実践経験を積み、それらの能力を活用する権限が与えられると同時に責任も増してくるという意味で、非常に充実した会社員生活を送っている方が多いかと思います。
そんな時代に私が転職を選んだ理由についてお話したいと思います。

不況下の古き良き日本企業の閉塞感

非常に保守的な社風のプラント関係設備機械のメーカーに勤めていたのですが、転職について漠然と考え始めたのは会社の閉塞感と将来への不安からでした。
ある程度の年齢になるとお金にまつわる色々な話が聞こえてくるものです。
ただし、話題になるのは同期との比較ではありません。
ボーナスや昇給額はある程度お互い喋ってしまっているので、たいして差がないことは把握しています。
話題になるのは年配社員の待遇です。
「今度定年退職する〇〇さんは2000万も貰っているらしいぞ」とか
「あの××さんはあんな仕事で月に80万も貰っている」とか、「〇〇部長は今年で終わりだから退職金いっぱいもらえていいよな」とか。
決まって、自分たちが退職する頃は退職金が減っているだろうし、年金の支給開始時期が70歳になり、支給額も減っているだろう、と締めくくります。
また、昇給カーブが明らかに鈍化しており、自分たちの上司が同じ年齢、同じポストだった時にもらえた金額よりも、明らかに少ない給料で働いている事も定番の愚痴です。また、仕事の面でも不満があります。
携帯電話のせいで休日でも容赦なく呼び出されますし、ノートPCを持ち歩く事で家にも仕事が侵入してきます。明らかに上の世代と比べて、拘束が厳しくて仕事量が多いのに給料と退職金が少ないのです。
これは単なる個人の感想ではなく、以前勤めていた会社での数字上のファクトですし、歴史の長い企業の多くが当てはまると思います。

じり貧という言葉が脳裏をよぎる

このような状態でモチベーションを高く保って仕事をするのは難しいです。
私はどうやったら個人としての収入を高める事が出来るか、と考えるようになりました。
当初は昇進をすればいいと考えて、作業効率化をはじめとする様々な提案をしましたが、ITや変化が苦手な高齢社員のやり方を変えることが出来ず、とん挫した事も原因の一つです。
年功序列・終身雇用の制度の下では、上のやり方を下の意見で変える事は難しいですね。
それに会社で出世をしても負荷がきつくなるだけで、たいして待遇が良くならない事にも気づいて、他に活路を求めました。
会社帰りに居酒屋で同僚と愚痴を言い合うぐらいならいっそ!というわけです。
このまま20年以上も務めると、絶対に悔いが残ると確信しました。

自分の人生を自分で決める

まず、親からは強く反対されました。
20代の頃にも転職しましたが、その時とは状況が違う、若ければやり直しがきくけれど、その年で一からやり直すなんて無理と引き止められたのです。
しかし、私自身は妻子がいないこともあり、どうせ男一人何とでも食べていけると考えて転職を決行しました。

転職成功のカギは業界経験

転職には転職サイトを使いました。
経歴を打ち込んで気になる企業に応募をしたり、スカウトメールを検討したり、退社後に面接に行ったり。ある会社では在籍しているから平日は時間が取れないと言ったら面接時間を夜にしてくれました。今では19:00から面接をしてくれる会社も珍しくないようです。
思ったより転職活動中の会社員は多いのかもしれません。
最終的には転職サイトの担当者と面談した上で数社をピックアップしてもらい、内定が出た複数の会社から決めました。
転職の決め手となったのは、業界での営業歴です。
いわゆる企業の研究所やプラント(工場の事)を相手に営業をしていたので、業界知識を持っている点が重要視されました。
例えば、N社のH研究所に検査機器を売りに行っていたけれど、転職先では同じ研究所に別の器具を売りに行く、といった具合です。
私のいる業界、プラント関係はセキュリティが厳しく、商流がきっちりしているので飛込み営業は不可能です。担当者と繋がっていないと、どこの誰に電話をかけてアポを取ればいいか分からないので、営業活動はできません。
これらの内容からは競合他社への転職に思われるかもしれませんが、お客さんの大半は共通しているけれど別の分野なので、以前の会社と関係することはありません。

我慢する毎日から挑戦する毎日へ

転職後、目に見えて差があったのは待遇です。
以前の会社は週休1日で土曜日は半日出社というシステムだったのですが、完全週休2日になりました。その上、給料も額面で数万円アップし、ボーナスも増えました。
役職こそありませんが、様々な面で仕事を任せてもらえるので非常にやりやすいです。
もちろん生え抜き社員が多い中の転職組なので、色々な面で転職先の企業文化に慣れる必要があります。環境の変化が最大のストレスですが、一か月も通えば慣れてきますし、
なによりも閉塞感の中で慣れた仕事をしながら愚痴を言い合うのに比べれば、毎日が充実しています。

画像はイメージです。写真提供PIXTA

やはりモチベーションが高いので仕事の質も効率も上がります。
嫌々働いている人が別の環境で生き生き働く事は、本人や会社の為になるだけでなく、社会全体の生産性アップにも寄与すると思います。
社会全体に視野を広げれば、一つの会社に人生を尽くして我慢するというかつての美徳は、むしろ悪徳に変わるのではないでしょうか。

会社で燻っている人たちへ

転職して数年が経ちましたが、前の会社の事はほとんど思い出しませんし、残った同期が出世しているイメージもありません。
薄情に思われるかもしれませんが、会社を離れた社員の事を思い出さないのと同じです。
上が詰まっている事から、おそらくは役職だけ与えられて、愚痴を言いながら同じような仕事をしているように思えます。
頻繁に飲みに行った仲の良い同僚もいますが、退職後は全く交流がなくなりました。
私にとっての会社の人間関係など、仕事で協力出来ればいい程度のさびしいものだったという事でしょう。
ただ、もしもかつての同僚が今も不満を抱えながら仕事をこなしているのなら、会社が設備投資する際に相見積をするように、自分自身の労働価値を相見積にかけて欲しいと思います。
今いる会社での評価が全てではないと知って欲しい。
会社に不満を抱えながらも現状維持すれば、今の生活が続けられるかもしれませんが、引き換えに少しずつ心が死んでいきます。
自分の能力をフルに発揮することもできません。
自分の評価軸を複数持って冷静に客観視することが、今後の生き方の選択をする上で必要だと思います。


【質問1】Rさんにとって、仕事とは?

人生の時間の大半を費やす一大事。仕事時間も人生の一部なので、仕事が終わってから自分の時間が始まるとは考えたくないです。今が充実しているか、常に自分に問いかけています。

【質問2】キャリアオーナーシップについてどう思いますか?

今後は必須だと思いますが、社会の意識が変わらないと難しいと感じます。特に中高年の場合、あと何年我慢したら、とか、今更他で苦労したくないと考えがちです。一つの会社に一生を捧げるのではなく、若いうちから自分のキャリアを意識しておくことが大事だと思います。