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人間らしい生活を求めて

【広島県 Aさん 43歳 大手外食チェーン → 製造業】
慢性的な人材不足の外食産業。その中にあって管理者に求められる役割りは他業種と比べられないほど多岐に渡りハードだと言われます。現場の管理者は何を考え如何に行動したのか。何のために働くかを自問し答えを見つけた方の体験談です。

会社員をしていると、どうしても仕事が優先される生活になっていきます。
特にサービス業の多くは、仕事のスタイルが家庭生活に合っていない仕事も多いのではないでしょうか?
入社から20年以上経ち、がむしゃらに仕事をこなしていた時期を過ぎて、ふとこの先を考えると、体力の衰えた自分は、とてつもない不安に襲われました。

「自分はこのままで良いのだろうか?」
「いやいや、転職しても正社員として今以上の給料がもらえる訳はない」
「我慢して続けるしかないのだろうか」
「自分を犠牲にする働き方が、本当に正しい道だろうか」

独立を目指していた時期もありましたが、日々の長時間労働に疲れ、数年前からは転職を考えるようになりました。
私は40代に入ったところで、これまで勤めていた会社を辞めました。
何を優先して転職に至ったかをお話したいと思います。

外食産業の管理職の現状

私が勤めていた外食産業は、サービス業につきものの「確保されているはずの休日がない」という仕事スタイルでした。
一般的に外食産業は、常に人員確保に頭を悩ませています。人手が足りないと、その日は休日のはずの社員が呼び出されるのは当たり前。店舗責任者として人件費の削減も担わされるため、計画シフト分以外の残業代はつかないのが実態です。
新人の面接から採用、トレーニング、発注、仕入れ、棚卸し、現金管理、原価管理、売上管理、衛生管理、損益計算、報告書、本部からの通達の遵守、オペレーション(現場作業)、店舗ミーティング、勤怠管理、シフト表作成、クレーム処理など、殆どの業務を店長一人でこなしている店舗も少なくありません。
店の雰囲気を自ら作っていける楽しさはありますが、自分よりも年上のパートへの扱いや、突然音信不通で来なくなってしまうアルバイトの管理は常に懸念事項でした。
飲食の世界が好きで、ある程度体力がないと続けていけない業務です。
また、この業界では、店長やマネージャーがエリアマネージャー、課長へと昇進できる枠はほぼ空いておらず、退職があった場合、本部から認められたごく一部の人間が昇進できるシステムとなっています。
慢性的な人手不足の中、プレイヤーとしての長時間業務に加えて、社員教育や店舗管理。責任が増える一方で休みがない生活に、体力の限界も感じるようになりました。
「このまま変わらない生活をあと20年続けられるのか?」
>答えはNOでした。

別業種への転職 不安は?

この世界しか知らない自分にとって、もちろん不安はありました。
しかし、いずれ身体と精神の限界がきて、鬱状態になる可能性の方が不安でしたので、「休みが当たり前に取れる職種」に変わる決意は固まっていました。
なかには早期退職をして飲食業で独立した先輩たちもいますが、人間関係で亀裂が入ったり、悩みのタネは常に人手不足で休みがとれにくかったりと、考えているよりも苦労はあるようです。
子供も2人いることで、「自分が倒れては元も子もない」「休日に家族と過ごす生活を選んでよいのではないか」と感じ「転職しよう!何でもやってみよう」と決めていたのです。

何のために働くのか

妻は、子供2人をみながらパートで働いていますが、私は仕事ばかりでほぼ母子家庭状態でした。
辞めたいと言ったとき、最初は「正社員として再就職先があるのか」と、猛反対をしていました。
しかし、このまま休日のない生活や、子どもと過ごす時間がないこと、土日や連休とは無縁の生活には内心不満があったようです。
家族で出かけるはずの休日に急な呼び出しを受けると、仕方ないとは言え、夫婦喧嘩に発展することもありました。

画像はイメージです。写真提供PIXTA

独身時代には同じ職場で働いていましたので、仕事内容に多少の理解はあったはずですが、夫婦2人での生活スタイルと、子供が生まれてからの生活の変化では、優先する事柄が違ってきます。
やはり、「家族として過ごす時間」「休みが当たり前に取れる、人間らしい生活」が大切だと感じるようになったようです。
給料が下がる分は、何かアルバイトなり副業で補充してほしいのが本音のようですが、それでも、今の会社にいることは限界だと感じる現実を考え、転職を賛成してくれました。

心の健康の大切さ

最終的には、これまでとは全く別の職種に正社員として就職しました。
給料面では多少の不安がありますが、「定時で終わる日があること」「盆正月、ゴールデンウィークなどの連休があること」が、何よりも人間らしい時間の過ごし方につながっています。
また、若い世代ばかりの前会社とは真逆で、今の会社は引退する年代の方が多い環境です。40代の私でもまだ若手として、現場、営業、事務と、さまざまな分野の勉強をさせてもらう機会に恵まれました。
前の会社の同僚とは、たまに飲む機会がありますが、愚痴をいい、休みの少なさに疲弊しながらも、こんなものだと半ばあきらめているようです。
我慢できるのであれば、それはそれで決して間違いではないと思います。
しかし、私は転職してはじめて、「休日の呼び出しがない、余暇を楽しむという生活」を得ました。
心身の健康を優先して良かったと、今は心から感じています。


【質問1】あなたにとって、仕事とは?
基本的には、生活をするため、給料を得るための手段。終身雇用ではない時代に、これまでのように家庭や人生を犠牲にしてまで、会社に尽くすことが重要ではないと感じています。
【質問2】キャリアオーナーシップについてどう思いますか?
人生で優先したいことは何かを考え、これからの時代には不可欠である「リストラや転職」が、決して負けではないという考えを持つことだと思います。
昔とは違い、会社は社員を守ってはくれません。
「我慢や忍耐が美徳」という日本人の根強い考え方の時代は終わろうとしています。
どう考えても無理だと、限界を感じながら仕事を継続することが立派な時代ではないのです。
集団でいることの生ぬるい安心感に疑問を持ち、長期的な視野で決断することは、自分自身の人生を生きる手段だと感じます。