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個人のキャリア、マルチステージと企業内リカレント教育のギャップ

日本のリカレント教育

当サイト「骨太の方針で社会人の学び直し、リカレント教育、そして週休3日制」では、4月の経済財政諮問会議での社会人のリカレント教育への支援強化について紹介しました。
コロナ禍でも成長を続ける企業はあり、新たな職場、ステージで活躍できるスキルを身につけるチャンスを拡大していくという事です。

社会人のリカレント教育に関しては、企業、教育機関の両面でで数年前から本格的に進められており、経団連の2月の発表では、41.5%の企業が大学等が実施するリカレント教育プログラムの受講を指示・奨励しており、さらに自発的に受講している社員がいる企業は15.9%で、合計で約6割の企業で社員がリカレント教育プログラム受講に参加しているということでした。
参照:「大学等が実施するリカレント教育に関するアンケート調査 日本経済団体連合会」(PDF)
教育の体制としては、社内に独自のリカレント教育セクションを設置したり、専門の企業からの学習プログラムを提供を受けたりする企業も増えています。

一方の教育機関でも、大学や専門学校が社会人向けコースを次々に新設。企業よっては大学との協働で構築したカリキュラムを活用したeラーニング受講を実地しているところもあるようです。
また通学などの学びの場所を問わない通信教育課程を設置する大学も増加。さらにコロナ禍にあってオンライン上での受講も増えており、各個人の事情に合わせ自分のペースで学ぶ環境が整備されてきています。
一見リカレント教育が上手く浸透してきているように感じますが、果たしてそうなのでしょうか?

本来リカレント教育は、人材の流動性が高い欧米では長く浸透しているもので、欧米では仕事をし始めてからも、学習機会が必要となった場合は、比較的長期間にわたって正規の学生として就学することを推奨され、個人の職業技術や知識を向上するためにフルタイムの就学とフルタイムの就労を交互に繰り返すことができるものです。

一方で日本国内では、古くから終身雇用など社会的に長期雇用の慣行があるため、新卒での入社後にOJT、OFFJTなどその企業で必要とされれる社内教育は受けても、いわゆる教育機関にもう一度戻って学習するというという考え方は希薄です。業務上必要な技術や知識は、キャリアを中断して外部で学ぶのではなく、企業内で特に現場主体で習得していくのが普通でした。

余談ですが、海外のテレビドラマを見ていると、「社会人が希望する次の仕事、職種のために専門的に勉強するため大学に通う」「元々違う仕事、職種であった人が、現在は全く別の仕事に就いている」という話はしばしば見られます。さらには「将来〇〇の仕事を目指してその学科のある▲▲大学に進む」という高校生の話なども。初めて見た時は文化の違いに感心したものですが、そもそも欧米諸国は個人が自身のキャリアに関する意識が高く、実は日本だけが違う考え方であることに気付かされます。
海外の知り合いに、相手の仕事を聞くと「職種」で帰ってくるのに対し、日本人だけが「会社名」で答えるということが、すべてを表しているのではないでしょうか。

リカレント教育取組みの資料より(文科省)

企業のリカレント教育は本物?

そのような古い慣行や働き方が定着している日本では、リカレント教育の考え方が諸外国に比べ広義に解釈されており、企業で“働きながら”同時に学んだり、仕事のためではなく“生きがいのために”学んだり(生涯学習)、学校以外の場で学んだりする場合(社外研修、自己啓発など)も含む言葉として使われています。

一方で上記の経団連のアンケート調査では、リカレント教育において企業が社員に求めるスキル・知識は、全世代を通じてデジタル・リテラシーが強く、世代別では、若年層と中堅層には論理的思考能力やコミュニケーション能力、ミドル・シニア層には指導・育成力やマネジメント能力を求めています。
デジタル関係の知識やリテラシー、論理的思考などは『個人のキャリア支援』というより『企業が求める人材、資質』。現在話題になるリカレント教育のほとんどが「従来のデジタル化、DX推進を求められ業態の転換やマーケットに対応した多角化を求められる企業において必要な人材の育成」という観点なのではないでしょうか。
またコミュニケーション能力やミドル・シニア層に求める指導・育成力やマネジメント能力は元々企業内社員教育では重要なテーマとして行われてきたものです。そしてそれはあくまでその企業の事業成長のためのものです。

残念ながら現在企業がリカレント教育と称して推進しているものは、単にこれまでの「社内教育の延長」であり、「社外利用や自己啓発を基軸にした社員教育の多様化」のようなものになっています。
社員がリカレント教育プログラム受講に参加していると発表した約6割の企業が、本当に個人に主軸を置いてキャリア開発に取り組んでいるとは言い難いのではと思います。

人生100年時代においてのリカレント教育とは、生涯にわたって教育と就労のサイクルを繰り返すことです。
一社に長期就労することより、転職や起業など色々な個人の幅広いキャリアを支援していく考え方です。一つの企業が事業継続、成長のために必要とするスキル・知識を持つ社員を育成することではありません。

文科省が発表した2018年のリカレント教育に関する取り組みでも「人生100年時代においては、教育、雇用、退職後という伝統的な3ステージの人生モデルから、マルチステージのモデルに変わっていく」と表明しています。

あくまでも主体は個人。
もちろん個々人が自身のキャリアオーナーシップを持つことが前提です。
マルチステージ、組織に雇われない働き方を前提に、一人ひとりのライフスタイルに応じたキャリア選択の支援としての本当のリカレント教育が求められていると思います。