拡大する社会人の自発的な学び
前回の「個人のキャリア、マルチステージと企業内リカレント教育のギャップ」で、現在、多くの企業でリカレント教育と称して推進されているものが、単にこれまでの「社内教育の延長」であり、「社外利用や自己啓発を基軸にした社員教育の多様化」のようなものになっていると述べました。
本来、『社会人の学び』と言われるものは、企業の事業展開に関係なく、『会社依存をしない個の働き方』のマルチステージにおいて、一社に長期就労することより、転職や起業など幅広い色々なキャリアを支援していく考え方であり、生涯にわたって教育と就労のサイクルを繰り返すことです。
文科省の推薦するリカレント教育もその考え方に沿ったものです。
■参考:文部科学省における リカレント教育の取組について(pdf)
そんな中、人材開発の大手、株式会社リクルートマネジメントソリューションズが、 年4月28日に「会社員の自律的な学びに関する実態調査」の結果を発表しました。
■参照:【調査発表】会社員の自律的な学びに関する実態調査(リクルートマネジメントソリューソンズ)
従業員規模1,000名以上の会社勤務で、大卒・大学院卒を対象とし20~50代の「1年以上学びを継続している」会社員のアンケート調査です。
1年以上学びを継続で489名の回答者ということで、実際に働く会社員の何割に当たるかはわかりませんが、何を学んだら良いのか? 継続して学べものは何か? と、常日頃から悩んでいる多くの会社員にヒントになる情報だと思います。
アンケートでは、学びの分野を生活文化系と語学仕事系と大きく2つに分けており、年代によって興味ある分野が如実に現れている感じです。
20代では、語学、仕事関係の知識、スキル、金融投資やスポーツ健康など幅広く取り組んでおり、いわゆる自身のキャリア、働き方において将来的にプラスになるであろう項目です。30代では語学が増えており、仕事を通して語学力の有無に直面したり、今後のビジネスにおける語学の重要性を認識しているのかもしれません。
注目すべきは、40代の金融投資、スポーツ健康系の上昇です。
将来の生活設計や、自身の健康管理など、漠然としていた課題に直面する年代でもあり、関心がその方向に向かっています。
そして50代では、再度、語学やビジネス知識スキルが高まっています。
金融投資関係、スポーツ健康関係も当然ですが、この年代になって「仕事に役立つ知識スキル系」に重点をおいているのが興味深い傾向です。
ご存知のように、40代50代のビジネスマンの多くが、今後の自分自身のキャリアを再考せざるを得ない時代に突入しています。
終身雇用や年功型人事がなくなり、また黒字リストラやコロナ禍における人員整理の対象となっていることから、これからキャリア、個々人の専門性や市場価値を問われる状況になってきています。
そのような観点から見れば、50代の会社員の自主的な学びに語学やビジネス知識スキルが高まっているのは当然なのかもしれません。
全体の統計がなく、一年以上の学びの継続者のデータなので、全体の何%ぐらいかはわかりませんが、少なくとも「学び直し」「社会人の学び」に関して、先行している人たちが何を考えているのかが見えて来ます。
学びの選びは興味関心だけで良いのか?
上記のリクルートマネジメントソリューションズの調査結果からも解るように、社会人の学びを先行して積極的に行っている人達の学び項目は、ビジネスだけでなく生活や文化、健康面など多岐にわたりますが、あくまでも本人が興味ある分野が主体となっています。
しかしながら人生100年、70代でも現役で働く事を考えると、果たして興味関心事での学びを広げていくことが良いかどうかは甚だ疑問です。
もちろん趣味などでの専門的な知識が仕事に変わる人もいれば、スポーツなどで出来た人脈を活かし次のビジネスに活かしている人も確かにいます。そしてそのような方に共通するのが、運や縁、タイミングだったりするのも事実です。
もし、現在お勤めの会社を出て、ワンランクアップした仕事、別の仕事での転職や独立起業など、人生における働く期間をマルチなステージと考えるならば、少なくとも『どのような仕事をしていきたいか』が先にあるべきだと考えます。
その為に必要な専門性を習得したり、資格勉強をしたりすることが、必要な『社会人の学び』ではないでしょうか。
知識スキル系で「IT・情報処理関係」のモノが極めて低いのも気になるところです。
小学生がプログラムの授業を受け、若者たちがITやツールに高いリテラシーを持つ現代において、「テレワーク、オンラインのツールが使えない」「文書をエクセルで作る」「共有ツールが理解できていない」など、IT遅れ世代と揶揄される事の多い40代、50代。
ITの基本を学び、活用して初めて仕事をこなせる時代に突入しています。
そして当サイトでもご紹介したように、現在中高年の為のプログラム教室やオンライン講座も次々開講しています。
■参考: 中高年・シニア世代のデジタルの学び
人生を豊かに 見識を広げる 新たな生きがいの発見 クオリティ・オブ・ライフ
確かに良い響きのスローガンです。
しかし現実的には
次にどのような仕事をしていくか、
どのステージで働いていきたいか、
そしてその為に今の自分に必要なスキルや専門性は何なのか。
そのことを充分踏まえた上で、自分に必要な社会人の学びを検討することを是非お勧めします。
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