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カウンセリング事例~上手くいかない原因に気づき、自分に合った働き方を選択するまで(第1回)

神奈川県Tさん 52歳 大手不動産 → 転職活動
働くことと生きることは切っても切れない、不可分のもので、プライベートやライフ面における葛藤は、キャリア形成にも大きな影響を与えます。
仕事における職業上の悩みだけでなく、家庭内の役割や生い立ちでの問題、人間関係での葛藤、また自己肯定感の少なさや性格上の問題など、困難な場面は誰にでもぶつかって来ます。そこで、これまで当機構の産業カウンセラーが受けた相談の事例をいくつかご紹介いたします。

仕事の虫がもたらしたもの (1回目のカウンセリング)

Tさんは職業訓練の受講中、自らの苦しみをシニア産業カウンセラーとの面談の際に打ち明けてきました。苦しみとは、先ず、自分が今後、仕事について生計を立てて生きていくことができるかどうかということ、数年前に妻と離婚し実家に戻ったが、同居していた頃のマンションを手放すことができず、収入もない状態でローンを払い続けていると言うことでした。

Tさん「わたしは、仕事の虫でした。前職は不動産業。大手のA社で、営業所では常にトップを目指していました。性格的にトップであらねば気が済まず、トップになるまで売り続けていました。仕事を休むということを知らず、常に競争心(闘争心)を持っていました。とにかくトップにならないと気が済まない。
精神的に追い込まれ、イライラが募り、周囲や後輩を叱咤激励し、苛烈に働き続けてきたのです。しかし、それで満たされた思いがないのも事実。どれだけ働いても得体のしれない不安から逃れられませんでした。
そんな中、恋人ができ結婚し家庭を持てば、自分が変わるかと期待もしましたが、変わらず…。仕事三昧で、かえって家でもイライラをぶちまけたり、だけど内面はとても不安で、妻との信頼を築くことすらできませんでした。あれほど好きであったのに、大事にできず、子供も得ることができず、結局、結婚生活は長く続きませんでした。
今はとても申し訳ないとは思っています。
その自分への戒めもあり、あの家(同居していたマンション)は持ち続けたいとこだわっているんです。」

奥さんが帰ってくることを望んでいるからですか

Tさん「いや、それはないです。ありえないと思う。本当は、こうやって自分を戒め続けている自分を認めてほしいんだと思う。」

なぜ、そう思うのですか?誰から認められたいのでしょう

Tさん「実は、思い当たることがあって、父です。父はとっても厳しい人で、勉強でも一番にならないと、手が出る人でした。ええ、父からの暴力を受けて僕は育ちました。
知らないうちに、いつでも、父に見られている、父に認められないといけない、という強迫観念を持った子に育ってしまったと思います。
僕は、いつでも必ず一番じゃなきゃ満足できないというより、生きている実感のない子になったんだと思っています。それが、子どものころじゃなく、大人になり、中年になった今でも続いています。
高校は県内でもトップクラスの進学校でした。大学も私大トップのK大学です。
卒業時は、バブルの影響が出始めた頃ですが、就職先には困りませんでした。今でも、僕の学歴、職歴をもってすれば、そこそこの会社に就職できると思います。
就職先に不動産会社は報酬面でも認知度でもトップクラスでした。ここで一番にならないといけないと思って選んだのです。そうすれば父に認められると思ったのです。
そして勤め始めてからは、さっきも話した通り、売り上げトップを目指しての仕事人生でした。」

今、実家暮らしですよね?お父様は変わらないのですか

Tさん「いえ、よぼよぼのじいさんです。力も弱く僕に手を挙げることは、もちろん、ありません。ですが、僕はいまだに父に認められなきゃと、たぶん思ってしまっているのです。こんな情けない自分を振り払えないことがまた駄目だと思います。あのマンションも、綺麗ごとではなく情けない自分の証だから持ち続けなければいけないとなぜか思ってしまっていて、手放せないかもしれません。」

ここまでの話で、Tさん自身が気づいたこと

Tさん「今の今に至るまで、自分は父親の顔色を窺って生きてきたんだということをつくづく思い知らされました。
そして、やっと、やめなくてはいけないと気が付きました。
離れていった妻に対しても済まないと思い、何より僕自身が、今後の人生や仕事を有意義にするために、もっと自分のために、自分で自分を認めるために仕事を選びたい、よい転職をしたいと思うようになりました。」

第2回に続く