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会社員からキャリアコンサルタントへ

藤田恒夫さん
川崎市総合就職サポート事業 川崎市しごと応援事業 総括責任者
精神保健福祉士 2級キャリアコンサルティング技能士 産業カウンセラー

長年の会社勤めから、キャリアコンサルタントとして川崎市のサポート事業の責任者へと転職された藤田さん。現在の仕事との出会い、転職のきっかけはどのようなものだったのでしょう。

編集部(以下編):藤田さんは、以前は大手半導体の商社で人事の仕事をされていたと伺いました。

藤田さん(以下敬称略) :
はい、そうです。当時、半導体はデジタル化の波を受け急成長の業界。大手メーカー系の半導体商社に新卒で入社して、本当は営業など現場第一線の仕事を希望していたのですが、配属されたのが総務部でした。総務なんて事務仕事ばかりのイメージで自分には合わないなあと(笑)。若い時はしょっちゅう辞めることばかり考えていましたね。
半導体の業界は世界が相手ですから、業界内で年々競争は激化しますし、好不況のサイクルも激しいんです。私の会社も他社と合併したり、常に変動の中で仕事をしていました。

特に人事の仕事は大変でした。
競争の激しい業界の中にあっては、色々な原因でうつ病などメンタルに不調をきたす社員が出てくるわけです。入社早々の新人からバリバリやってる社員、さらには管理職に至るまでメンタル不調に陥る社員は様々で、その人数も少なくありませんでした。
ハードな仕事ということもあるでしょうが、予算と言う名の厳しい目標があって数字がいかないと追い詰められてしまう。うつ病を発症する人に共通するのは真面目な人が多いんですね。

人事部門ですから、そういった社員と面談をする機会も多く、しばらくはどう対応していいのか解らずなかなか上手くいかない。
「人の話を聴く、本音を語ってもらう」ことって本当に難しい。これは非常に難しい仕事だなと。ですから、そういう社員達をカウンセリングするスキルが欲しいなとその頃は漠然と思っていたんです。

藤田恒夫さん

編:キャリアカウンセリングに興味を持たれたのは、それがキッカケですか?

藤田 : そうですね。その時にたまたまキャリアカウンセリングの講座をテクノファ*さんでやってるニュースがあって、やってみようかと。それがひとつの大きなきっかけですね。(※株式会社テクノファ )

カウンセリングのスキルは重要で、面談での対話など細かな部分までケアして寄り添いながらサポートしていかないと会社を辞めてしまうだけでなく、再び社会に復帰することさえできない社員もでてくるわけです。
私が若いころは、メンタルヘルスに関する専門的な知識やノウハウも無いことから会社としてそういう社員を抱えるのは大変で、そういう社員は辞めてもらう方向で対応していました。残念ながらそういう時代だったんですね。
でも人事でカウンセリングの仕事をしていくうちに、実はそういう人もきちんと休養と治療をして、復職に向けて私がカウンセリングで拘わっていくことで、、復活できるんだ、活躍できるんだと言うのが解ってくる。
元々優秀な人材ですから、戻ってきて活躍してもらった方が会社としてもありがたいのです。

キャリアコンサルタントは当時は国家資格ではなく民間資格だったのですが、こういスキルはこれから先々に自分のバックボーンになるかなと感じていました。
(※キャリアコンサルタントの資格詳細はこちら 資格情報サイトBrush UP 学び)

ただ、当時は現在のように、企業に専門のキャリアカウンセラーが付いている時代ではなく、また、そういった人材も部署も無いので、私自身がキャリアコンサルタントの民間資格を取得して、社員相談室を作ったり、さらに精神保健福祉士の資格を取得して、メンタルケアの窓口として産業医と連携したり、また、メンタルへルス研修を開催して予防してもらう等の仕事をしていました。
そういう人たちをサポートしてあげたいという思いで仕事をしていましたね。

編 : それで、その道に進もうと思われたのですか?

藤田 : いいえ、最初は社内でそういう体制をしっかり作っていきたいという思いだったのですが、実は当時、業界の不況に加えて東日本大震災で先端分野の工場が停止するなど大変な状況になり、私の会社も大規模なリストラをやることになったんです。
社員のキャリアや人材に関する仕事が一転して、リストラ・退職の担当になってしまったわけです。
当時人事部長だったので、リストラの旗振り役をやりました。
毎日対象者の面談です。
悲しい話ですが、長年面談をやってきていたので自分自身のメンタルは比較的タフでしたね。
上役に「人材を育てるキャリア開発をやりましょう!」と提言しても「申しわけないけどそんな状況じゃない。」と言われ、もし会社が回復したとして、この会社で自分のやりたい仕事が出来るかどうかと考えたら、当分の間は無理だなと思いましたね。先々できる状況になったとしても、そのときまで待つには時間がもったいないとも思いました。

私自身50代に入ったばかりで、このまま会社に残って定年退職を待って、その後にやりたい仕事に就くと言う選択肢もあると思いますが、何か違和感を感じていました。
もし気力、体力があって60歳から次のステージで元気に働くつもりなら、60歳でトップギアで走れる準備を50歳代からしないと遅いんです。やりたいことを諦めて収入のために定年まで働くことに我慢できなかったんですね。
ですから、逆に会社のリストラは自分にとってはいい機会だなと思って、メンタルヘルスとキャリアについての専門家になろうと決めました。

編 : スキルや資格取得など、どのように勉強されたのですか?

藤田 : 元々、在職中に働きながら勉強したり資格を取ったりしていました。
キャリアコンサルタントに関しては、テクノファの休日の講座に三か月ぐらい通いました。この期間は二泊三日のCDW(キャリアディベロップメントワークショップ)もあって、新しい働き方を見つけた思いで大変興味深く参加したのを覚えています。
精神保健福祉士は簡単に言えば、基本は福祉士だけど、精神医学をバックボーンに精神的な病気を抱えた人を医療につないだり、治療を経て社会に復帰することを支援する仕事です。
国家資格なので、受験資格を得るために当時は90時間の実習があって、精神科病院や社会復帰準備施設に通いました。その期間は会社の長期有休休暇制度を上手く使って学びました。
(※精神保健福祉士の資格についてはこちら 資格情報サイトBrush UP 学び)
学習は覚えることが中心で、それ自体は難しくないと思いますが、何が一番大変だったかと言えば、覚えなければならない科目が多いことと、働きながら覚える時間を確保することでした。
今思えば50歳ぐらいで、結構賭けてたなと(笑)
その道で行こうと決めたらやるしかない!!ですから。
通信教育だと二年かかるし、周りは若い人も多い。そんな中でも「私は志が違うんだ!!」と言い聞かせて頑張りました。(笑)

人事部の仕事で社員と面談を通して、キャリア、メンタルヘルスの専門家へと転身された藤田さん。現在の仕事はどのようなものなのでしょう。

編 : 学んだことや取得したスキルは現在の仕事にそのまま活かせたのですか?

藤田 : スキルや資格を取得しても大変なのは実はそこからなんです。
やりたいことをやろうと退職し、勉強して資格も取り、でも実際にやってみると、戸惑うことは日常茶飯事で、想定外のこともいっぱいありました。

現在の仕事は川崎市から「生活保護受給者の就労支援をヤリタイ、その対象者はかなりメンタルに課題がある人が多いのでその辺りのケアを含めマネジメント出来る人に参加して欲しい」と言う相談から始まった仕事です。
ですから会社の為の仕事ではなく、相手が人の仕事なんです。
企業の中で相談に来る人は、極論を言えば明日食っていくことで困る人はいないし、生命の危険を感じる人もいません。しかし、ここ(市の就労支援窓口)に来る人は、逆にそういう事に直面しながらというひっ迫した状況の方も多いのです。だからといって決して仕事をしたくないと言うわけではない。だだ病気や障害等の色んな事情もあって、就労への一歩が踏み出せないとか、諦めざるを得ない状況の方。その中には10代、20代の若い方も少なくありません。

このように私たちが面談する多くの方は複雑かつ深刻な問題を抱えた人たちです。
人を支援していくということは学んだ理論と実際に体験したことを融合させていく必要があるんです。
冷や汗かきながら、失敗しながら、クレームを受けながら、その経験をもとに理論と融合させて自分の中で整理して実践に役立ていく。
この繰り返しが大事なことなんです。

編 : 今後についてどのように仕事をしていきたいですか?

藤田 : 生活保護受給者の就労支援は、まだたま課題は多く、これからが重要だと思います。
この就労支援の事業モデルは、川崎市が関東では初めてなんです。その後、多くの自治体に拡大していきましたが、私にとってスタートからこの事業に参画できたことは幸運だったと思います。
さらに対象者だけでなく受け皿の企業側も、一昔前よりも随分理解は進んで変わってきてますが、具体的ににはまだまだの所も多いのです。
就労支援をしていて面接を了解してもらって、実際に会っていただければ、上手くいくケースは多いのですけど、なかなかそこまでいかない。総論はOKだけど各論はまだまだの企業が多いのが実態なんです。
例えば週に20時間以下しか仕事が出来ない人もいます。企業としては20時間以上じゃないと障碍者雇用にならないので見送るケースもあるんです。こういった部分は今後制度改革が求められると思います。でないと社会に参加できないし、引きこもってしまう人が益々増えていくのではと思います。

事業自体の関東エリアでの展開はもとより、受け皿企業の意識、そして対象者のカウンセリングとメンタルケアなど、取り組まなければならないことは山ほどあります。

そしてそれは福祉とも結びつきます。
私は一緒に仕事をしているメンバーに、「人が働く・キャリアと言うテーマでの仕事だけど軸足は福祉だ」と言っています。福祉の中にキャリアの考えを入れながらやらなければいけない、福祉も含めたケースワーク的な発想が無いと良い支援はできない。メンタルの部分については私も発信していくけど自身でも勉強することを伝えています。

現在、キャリアとメンタルは表裏一体と言うか、つまづく原因の一つにメンタルの要因が多くあります。その点を充分に踏まえた上で、私自身、今後も専門家として社会に貢献していければと思っています。

編 : 最後に藤田さんのように、長年の会社勤めから別の世界に転身したいと思っている方に何か一言ありますか?

藤田 : そうですね。私は企業と個人の関係は「共生」だと学んできましたし、言ってきました。寄生しちゃいけない、あくまで共生です。会社が利益を上げるために個人を利用するなら、個人も会社に貢献しながら現在の仕事を自分の成長に利用する気持ちが大切だと思うのです。

さらにヤリタイ事があって、働きながら勉強することは物凄いパワーや自制心も必要ですし、いざ退職となると世知辛い話ですが、家のローンや子供の教育費などファイナンシャルなテーマにも直面します。
でも、本当にそういうことが解消しなければ本当に何もできないのか?と思うんです。
やる気があればなんとかなるって思います。
だって先は長いですし、働ければいいわけですから。

そして、もし次のステージで活躍したいと考えているなら、その時にトップギアで走れるよう充分な時間をかけて準備をすべきだと思います。
これはキャリアコンサルタントとしてだけでなく、私個人としてのアドバイスでもありますけど。

編集後記
8050問題、中高年引きこもりなどのニュースが話題になっている現在、藤田さんのような公的な機関でのキャリアコンサル、メンタルケアなどのサービス、専門家は間違いなく重要になってくるでしょう。
競争の激しい業界、企業の中で見出した自分のヤリタイ仕事。藤田さんのように働きながら学び、専門性を磨くことはそう簡単なことではありません。
「資格の勉強は周りは若い人も多くて。でも、私は志が違うんだ!!(笑)と、内心言い聞かせて頑張りましたよ」と、笑顔で語った藤田さん。
次のステージに移ったときにトップギアで走れる力をつけていたいとう強い思いが感じ取れました。